民法改正で何が変わる?マンション売却における契約不適合責任の影響

2020年4月、改正された民法が施行されます。民法は1898年の施行以来の約120年間、ほとんど内容は変化していませんでした。民法とは、私たちの生活を支える基本的なルールであり、そのルールが大きく変わることになるため、私たちにも影響が及びます。

今回の改正内容には、「契約」が含まれています。人生の三大費用の1つ「住宅購入」も「契約」の一種なので、民法改正による影響を受けます。とくに、土地やマンションなどの不動産を売ろうと考えている売主にとって、今回の改正は見過ごせない大問題なのです。

では、民法改正で何が変わり、どんなことに気をつける必要があるのでしょうか。中古マンションの購入・売却を例に挙げながら、民法改正について説明します。

※本記事は、2019年(令和元年)7月末時点で判明している情報に基づいて記載しています。

売主の責任の範囲が変わる

もし買ったマンションが欠陥住宅だとわかったら、購入者はがくぜんとするかもしれません。売主に「責任を取れ!」「代金を返せ!」と言いたくなるでしょう。2020年4月1日の民法改正によって、この日以降に契約する不動産売買について大きく変わる部分は、この住宅の欠陥の扱いです。

具体的には、「売主が責任を負わなければいけない欠陥とは何か」「もし欠陥があったら売主はどう責任を取るのか」といった部分が変わることになります。

民法改正前は欠陥が隠れているかどうかが重要

民法改正前の売主が負うべき責任は、「瑕疵(かし)担保責任」と言います。「瑕疵」とは、欠陥のことです。ただし、瑕疵担保責任で負う瑕疵は、「隠れた瑕疵」に限られます。

例えば、壁や柱にできた傷やヘコミは、売主が責任を負う必要はありません。そういった目立つ瑕疵であれば、買主はマンション購入前に見て確認できますし、その瑕疵に納得したうえで売買契約したはずです。

一方、給排水管の損傷は、売主が責任を負う可能性があります。給排水管の損傷は、マンションを見ただけでは分からないケースが多いため、買主は給排水管に関して問題がないという前提で売買契約を結びます。そのため、瑕疵担保責任の対象になる欠陥は、購入前に見つけられなかった隠れた瑕疵だけになります。

瑕疵担保責任は、その欠陥が「隠れているか」「隠れていないか」を判断するのが難しいという問題を抱えています。売主は「あなたは、この欠陥があると知っていてマンションを買ったはずだ」と言い、買主は「買う時にはこの欠陥があるなんて知らなかった」と主張し、裁判で争うケースもあります。

民法改正後は欠陥が契約に記載されているかどうかが重要

瑕疵が隠れているかどうかの判断が難しい問題や、「疵担」というなじみのない言葉を使うのをやめようという意見から、瑕疵担保責任は民法改正によってなくなります。

そして、民法改正で新たに「契約不適合責任」という責任が誕生することになりました。契約不適合責任は、「目的物の種類、品質及び数量が契約の内容に適合しない場合」は、売主が責任を負うという制度です。

欠陥が「隠れているか」「隠れていないか」ではなく、「契約に適合しているかどうか」が判断基準になります。つまり、「欠陥のないマンションを売る」という契約をすれば、欠陥がないことについて売主は責任を負うことになります。

壁や柱にできた傷やヘコミは、改正前は売主が責任を追及されませんでしたが、改正後は契約の内容によっては追及される可能性があり、売主の責任の範囲は広がったと言えそうです。

また、「契約に適合しているかどうか」という判断基準は、従来の「欠陥が隠れているかどうか」よりも明確でわかりやすくなりました。そうなると、今までは「この欠陥は隠れていると主張できるか微妙だから、請求しないでおこう」と思う人も、「契約書には明らかにこの欠陥のことは書かれていないから、請求できそうだ」と考えるようになるかもしれません。「契約不適合責任」への変更は、マンションの買主に有利に、売主には不利に働きそうです。

買主が請求できる権利が変わる

民法改正によって変わるのは、売主の責任の範囲だけではありません。買主が請求できる権利も変わります。

民法改正前は「損害賠償」と「解除」を請求可能

現行の瑕疵担保責任だと、買主は「損害賠償」「解除」を請求できます。

損害賠償とは、他人に損害を与えた者が、その損害に対して補償することです。例えば、購入したマンションの給排水管が損傷していれば、買主はその修理費用を売主に請求できます。

また、買主が契約の目的を達することができないなら、契約を解除できます。見つかった欠陥を直すことが技術的に困難で、生活できないときは、マンションの売買契約そのものを解除可能です。

民法改正後は「追完請求」「代金減額請求」も請求可能

民法改正後の契約不適合責任だと、損害賠償・解除に加えて、「追完請求」「代金減額請求」が請求できるようになります。

追完請求とは、「〇〇を直してください」と売主に請求する権利です。給排水管が壊れているのを見つけたから、直してくださいと請求できるようになります。

代金減額請求とは、その名の通り、代金を減額してもらう権利です。売主に「給排水管を直してください」と伝えたのに対応してもらえない場合、代金減額請求ができます。なお、減額する金額は、基本的に修理代と同等です。

例えば、損害賠償が認められなくても、代わりに追完請求や代金減額請求が認められることがあり得ます。このように、買主の権利が増えるということは、売主の負担の増加につながるのです。

権利を行使できる期間が変わる

買主が欠陥を見つけても、いつでも売主に責任を追及できるわけではありません。もしマンションを引き渡してから30年もたった後に「責任をとれ!」と言われても売主は困ってしまいます。そのため、買主が権利を行使できる期間は限られています。今回の民法改正では、この期間も変わります。

改正前は、買主が欠陥を見つけてから1年以内に権利を行使しないと認められず、さらにマンションの引き渡しから10年の間に行使しなければならないという、時効の期間が設けられています。

改正後は、買主が欠陥を見つけてから1年以内に売主に「契約と違う」と通知する必要はありますが、その後、権利を行使できることを知ったときから、5年以内に権利を行使する必要があります。さらに、マンションの引き渡しから10年で権利が時効が消滅します。この時効期間に、変更はありません。

今回の民法改正は、消費者を保護する側面があります。中古マンションの購入を検討している人にとっては、民法によって守られる部分が増え、安心して買えるようになります。それはすなわち、中古マンションの売主からすると、より慎重に売却を進めなければいけないため、負担は増えると言えます。

売買契約書の記載内容がより重視される


売主にとって、今回の民法改正の影響が大きいことは理解できたと思います。それでは、マンションを売るときは、具体的に何が変わるのでしょうか。

これまで説明した通り、改正後の契約不適合責任は「契約の内容に適合しない場合」は、売主が責任を負うという制度です。そのため、契約書の記載内容は今まで以上に重要になります。

契約書に書かれた内容が曖昧だと、その部分を指摘され、裁判で論点になる可能性があります。売主の防衛手段としては、契約内容をより具体的に、より明確にしておくことが重要です。ただ、そうすると契約書に記載する内容が増え、確認にも時間がかかります。

また、契約内容に「特約」を多く取り入れることも予想されます。特約とは、当事者の事情に合わせて民法の条文や標準的な売買契約書とは違う取り扱いをすることを言います。

例えば、「水道管については、マンション引き渡し後に水道管の損傷があっても、買主の責任と費用で補修し、売主に対して費用の請求等は求めない」といった特約を契約書内に盛り込むことになります。

このような「欠陥があっても責任を追求しない」という特約は、買主が容認していれば有効のようです。どういった特約が有効なのかはまだ裁判による判例がないため不確定な部分はありますが、特約をしっかりと契約書くことは、今後ますます重要になると考えられます。

売主が気をつけること

マンションを売るとき、一般的には仲介する不動産会社に売買契約書を作成してもらいます。売主は漏れなどのミスがないか確認するため、細かい字で何枚も書かれた売買契約書を読む必要があります。もちろん、民法改正前でも売買契約書にしっかりと目を通さないとまずいですが、2020年4月以降は、これまで以上に気を付けなければなりません。

売買契約書を熟読する

売買契約書に、売主の責任に該当する部分とそうでない部分は、明確にしておく必要があります。水道管、下水道管、ガス管、基礎など、今まで隠れた瑕疵としていた部分はどう取り扱うのかなど、理解しておきましょう。

気になることがあれば相談する

もし、契約書を読んで疑問点があれば、不動産会社に遠慮なく相談すべきです。曖昧な点があると、あとで買主から指摘されるでしょう。また、あらかじめ不安なことがあれば、事前に相談して契約書に盛り込んでもらいましょう。

自分が不安だと思っている点についても、しっかりと対応してくれる不動産会社を探すことも重要です。「高く売ります」「すぐに売れます」といった甘い言葉に惑わされず、民法改正にもきちんと対応している良い業者を探す努力が必要です。

インスペクションで対策も可能

売主側でできる対策として、専門家による住宅診断「インスペクション」を利用するという手もあります。売却前に専門家の診断を受けることで安心してマンションを売ることができるほか、もし欠陥や不具合が見つかれば特約に記載する対策が取れます。さらに、インスペクション済み物件として、買主にアピールできるというメリットもあります。

買主に「契約内容に書かれていない欠陥があった」と主張されても、極端な話、インスペクションのせいにもできることもあるでしょうし、「インスペクション時では欠陥が見つからなかったから、その欠陥は売却後にできたものだ」と反論もできます。そこまで話が発展しなくてもインスペクションがあれば、瑕疵担保保険で不具合を解消できる可能性もあります。

平成28年の宅建業法の改正により、仲介業者は売主にインスペクションについて説明することが義務化され、これから浸透していくことが期待されています。

インスペクションを採用するうえでの懸念点は、実施には費用がかかり、もし不具合や欠陥が見つかったら、その分だけ売却価格を低く設定しないと売れづらくなることです。一方で、第三者の目を通した物件の状態がより明確になり、取引の透明性もこれまで以上に確保されるため、買主も安心して取引ができるようになると期待されています。

まとめ

2020年4月に施行される民法改正により、瑕疵担保責任がなくなり、契約不適合責任が生まれます。この改正により、売主としては説明の手間や契約書作成の負担が増えますが、中古マンションが売りにくくなるわけではありません。買主が安心して中古マンションを購入できる環境が整うとも言えるため、中古マンションもより買いやすくなることが期待されます。

ただし、この新しい考え方はまだ始まっていませんので、今後どのような問題が起きるかわかりません。そのため、判例も多くあって、多くの判例によりルールが整備されている現行民法が適用されている今のうちにマンションを売ってしまうのも一つの考え方です。その場合は、すぐに準備を始めるべきでしょう。

民法改正後にマンションを売るなら、ここでお話した注意点を踏まえたうえで、契約不適合責任にしっかり対応できる不動産会社を見つけてください。

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